大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)7605号 判決 1984年6月29日
原告(反訴被告)
褒徳信用組合
右代表者
川瀬徳之
右訴訟代理人
北林博
西村元昭
被告(反訴原告)
株式会社冨士工
右代表者
日高勲
右訴訟代理人
清木尚芳
正木丈雄
榊原正峰
山田俊介
被告
東大阪市
右代表者東大阪市長
北川謙次
右訴訟代理人
北岡満
主文
一 原告(反訴被告)の請求をいずれも棄却する。
二 原告(反訴被告)と被告(反訴原告)株式会社冨士工との間で、別紙供託金目録記載の供託金の還付請求権は、被告(反訴原告)株式会社冨士工に帰属することを確認する。
三 被告(反訴原告)株式会社冨士工のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用のうち、本訴につき生じた費用は原告(反訴被告)の負担とし、反訴につき生じた費用はこれを一〇分し、その一を被告(反訴原告)株式会社冨士工の負担とし、その余は原告(反訴被告)の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 本訴請求の趣旨
1 主位的請求
(一) 原告(反訴被告、以下「原告」という。)と被告(反訴原告)株式会社冨士工(以下「被告冨士工」という。)との間で、別紙債権目録記載の債権につき、原告が被告東大阪市から被告冨士工に代理して受領する権限を有することを確認する。
(二) 被告東大阪市は原告に対し、金二億六〇〇〇万円及びこれに対する昭和五七年三月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 予備的請求(一)
原告と被告らとの間で、別紙供託金目録記載の供託金の還付請求権は、原告に帰属することを確認する。
3 予備的請求(二)
被告らは原告に対し、連帯して、金二億六〇〇〇万円及びこれに対する被告冨士工については昭和五七年三月二四日から、被告東大阪市については同月二一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
5 前記第1項の(二)、同第3、4項につき仮執行宣言
二 本訴請求の趣旨に対する被告らの答弁
(被告冨士工の本案前の答弁)
1 原告の被告冨士工に対する主位的請求(一)に係る訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
(被告らの本案前の答弁)
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
三 被告冨士工の反訴請求の趣旨
1 主文第二項と同旨
2 原告は被告冨士工に対し、金二億六〇〇〇万円に対する昭和五七年五月二七日から本判決確定の日まで年六分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は原告の負担とする。
四 反訴請求の趣旨に対する原告の答弁
1 被告冨士工の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は被告冨士工の負担とする。
第二 当事者の主張
一 本訴請求原因
(主位的請求)
1(一) 原告は、八興産業株式会社(以下「八興産業」という。)との間で、昭和五五年一二月三一日、信用組合取引契約を締結し、同契約に基づき、八興産業に対し、同日、金一億三〇〇〇万円を弁済期昭和五六年七月二日の約定で、昭和五六年三月一七日、金一億三〇〇〇万円を弁済期同年七月二五日の約定でいずれも手形貸付の方法により貸し渡した。
(二) 八興建設株式会社(以下「八興建設」という。)は、原告の右各貸付に当たり、原告に対し、各、八興産業が原告に対し負担すべき右貸金債務につき連帯保証をした。
2 これより先、被告冨士工及び八興建設は、右二つの企業が被告東大阪市の発注にかかる土木建設工事を連帯して施工するための建設共同企業体である冨士工・八興建設共同企業体(以下「本件共同企業体」という。)を結成し、本件共同企業体は、昭和五五年一二月二五日付をもつて、被告東大阪市との間で、左記のとおり同市発注に係る工事請負契約を締結した(以下「本件請負契約」という。)。
記
工事名 東大阪市立西堤小学校分教場(仮称)新築工事(以下「本件請負工事」という。)
工事場所 東大阪市御厨八八二の一
工期 着工 昭和五五年一二月二六日
完成 昭和五七年二月八日
請負代金 金五億六〇〇〇万円
代金支払方法 前払金 金五〇〇〇万円以内 中間金 出来高既済部分の九〇パーセント以内 残額竣工後払
3 原告は、昭和五六年三月二三日ころ、被告冨士工及び八興建設との間に、両会社を委任者・原告を受任者として、八興建設の原告に対する前記1(二)記載の連帯保証債務を担保するため、本件請負契約に基づき、本件共同企業体の構成員である被告冨士工及び八興建設が、被告東大阪市に対して取得すべき請負代金債権金五億六〇〇〇万円の内金三億円につき、両会社が右三億円の受領を原告に委任し、原告が直接被告東大阪市から右金員を受領することができること、右代理受領委任行為は委任者、受任者双方の同意なくして解除できないことを内容とする代理受領委任契約(以下「本件代理受領委任契約」という。)を締結し、被告東大阪市は原告、八興建設及び被告冨士工に対し、同月二七日、右代理受領委任契約及び委任契約解除制約条項を承認した。
4 そして、本件共同企業体は、本件請負工事に着工したものであるところ、右工事は昭和五七年二月末日ころ完成のうえ、被告東大阪市に引渡された。
5 よつて、原告は、本件代理受領権限に基づき、別紙債権目録記載の債権(以下「本件債権」という。)につき、被告冨士工に代理して被告東大阪市からこれを受領する権限を有し、しかも、被告東大阪市はこれを承諾しているから、被告東大阪市に対して右支払請求権を有する。
6 被告冨士工は、同被告のみが、被告東大阪市から本件債権を受領し得る旨主張し、原告の代理受領権限を争つている。
よつて、原告は、主位的請求として、被告冨士工との間で、本件債権につき、原告が被告東大阪市から被告冨士工に代理して受領する権限を有することの確認を求めるとともに、被告東大阪市に対し、代理受領権に基づき、本件債権金二億六〇〇〇万円及びこれに対する履行期到来後の昭和五七年三月二一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(予備的請求その(一))
7 原告は、被告らを相手どつて、昭和五七年三月九日大阪地方裁判所に対し、本件債権につき債権取立禁止仮処分命令を申請し、同月一〇日、その旨の決定を得、右決定は被告らに送達された(以下「本件仮処分」という。)ところ、被告東大阪市は、同年五月二六日、真の債権者が被告冨士工か原告か確知できないことを理由として、別紙供託金目録記載のとおり、本件請負工事代金二億六〇〇〇万円を弁済のため供託した(以下「本件供託金」という。)。
8 しかしながら、本件供託に係る本件債権の受領権者は原告であるから、右供託は無効であるが、仮りに有効としても、その還付請求権は原告に帰属している。
9 しかるに、被告らは本件供託金の還付請求権の帰属を争つている。
よつて、原告は、予備的請求(一)として、被告らとの間で、本件供託金の還付請求権が原告に帰属することの確認を求める。
(予備的請求その(二))
仮りに、被告ら間に後記記載の請負変更契約が締結されたことにより、原告の代理受領権限が、本件債権あるいは本件供託金に及ばないとしても、
10 被告らは原告に対し、本件代理受領委任契約の委任者又は承諾者として、原告の有する代理受領権限を侵害してはならない契約上の義務を負担していた。
11 しかも、被告冨士工は、本件請負契約における契約条項第四六条に基づき、本件共同企業体の構成員である八興建設が倒産した場合においても、被告冨士工が単独で本件請負契約を履行する債務を負担していたのであるから、八興建設が倒産しても、被告らはことさら本件請負契約の請負人を変更する契約を締結する必要性は全くなかつた。
12 しかるに、被告らは、もつぱら原告の本件代理受領権を排除することのみを目的として、前記請負変更契約を締結したものであるから、被告らの右行為は前記契約上の義務に違反し、かつ、原告の本件代理受領権を不法に侵害する違法な行為というべきである。
13 原告は、被告らの右行為により、本件請負契約の請負代金の内金二億六〇〇〇万円につき本件代理受領権を行使して、これを債権担保として受領し、八興産業に対する貸金債務に充当する機会を不法に奪われた結果、右同額の損害を被つた。
よつて、原告は、予備的講求(二)として、被告らに対し、債務不履行もしくは不法行為に基づく損害賠償として、連帯して、金二億六〇〇〇万円及びこれに対する履行期到来後の本訴状送達の日の翌日である、被告冨士工については昭和五七年三月二四日から、被告東大阪市については同月二一日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 被告冨士工の本案前の主張
原告の被告冨士工に対する主位的請求原因によれば、本件共同企業体の被告東大阪市に対する本件請負工事代金を原告主張の代理受領の目的債権とするものであり、また、右代理受領の委任者も本件共同企業体であることからすれば、右請求は本件共同企業体若しくはその構成員である被告冨士工及び八興建設の双方を被告当事者とすべきであるところ、原告は本件共同企業体の一構成員である被告冨士工のみを被告当事者としているから、原告の主位的請求にかかる被告冨士工に対する訴は、当事者適格を欠き不適法である。
三 被告冨士工の本案前の主張に対する原告の反論
原告主張の代理受領権限を争つているのは被告冨士工のみであるから、本件共同企業体若しくはその構成員全員を被告当事者とする必要は全くない。
四 請求原因に対する被告らの認否及び主張
(被告冨士工)
1 請求原因1(一)(二)の各事実はいずれも知らない。
2 同2の事実は認める。
3 同3の事実のうち、被告東大阪市に対し、本件共同企業体を委任者とし、原告を受任者とする本件共同企業体が取得すべき本件請負代金三億円についての代理受領承認願がなされたこと、右代理受領承認願には委任者、受任者双方の同意なくして委任を解除しない旨の記載がなされていること、被告東大阪市が右代理受領承認願に対し承認を与えたことは認めるが、その余の事実は争う。
4 同4の事実は認める。
5 同5の事実は争う。
原告は被告東大阪市に対し、その主張する代理受領の目的債権の支払請求権を有しない。すなわち、代理受領権限は、仮りに第三債務者がこれを承認している場合でも、第三債務者が任意に弁済する場合に限り、これを委任者の名において、委任者の受領代理人として、受領する権限のみを有するにとどまり、これ以上の支払請求権も取立権も有しない。
6 同6、7の各事実はいずれも認める。
7 同8の事実は争う。
8 同9の事実は認める。
9 同10ないし13の各事実はいずれも争う。
原告の代理受領権限は、本来、被告冨士工が単独で施工した本件請負工事代金までその引当てとしておらず、八興建設が倒産廃業した時点で、右代理受領権限をもつてしては債権の回収を計ることができない立場にあつたのであるから、被告らが後記の本件請負変更契約を締結し、残余工事を被告冨士工が施工完成し、その工事代金を被告冨士工の固有のものとしたとしても、原告の権利、利益を何ら侵害したことにならない。
(被告東大阪市)
1 請求原因1(一)(二)の各事実はいずれも知らない。
2 同2の事実は認める。
3 同3の事実のうち、昭和五六年三月二三日、原告、被告冨士工及び八興建設から被告東大阪市に対し、本件請負代金の内金三億円について代理受領承認願があり、被告東大阪市がこれを承認したことは認めるが、その余の事実は知らない。
4 同4の事実は認める。
5 同5の事実は争う。
原告が、被告東大阪市に対する直接の履行請求権を有しないことにつき、被告冨士工の前記主張を援用する。
6 同6、7の各事実はいずれも認める。
7 同8の事実は争う。
8 同9の事実は認める。
9 同10ないし13の各事実はいずれも争う。
原告は、八興建設に融資し、八興建設が受け取るべき請負代金より返済を受けることを予定していたところ、八興建設が工事をほとんど実行しない段階で倒産したのであるから、この段階で、原告が回収し得る八興建設の請負代金債権は存在しなかつた。その後の残工事は、被告冨士工が独自にしたもので八興建設はまつたく関与していない。したがつて、被告らの本件請負変更契約の締結は、原告に新たな損害を生じさせたとはいえない。
五 被告らの抗弁
(被告冨士工)
1(一) 本件代理受領委任契約には、代理受領の目的債権は、八興建設が本件共同企業体の内部関係において取得することを得べき請負工事代金請求権の持分の限度内である旨の約定があつた。
けだし、本件の如く、代理受領権者に対する債務者が共同企業体自身ではなくて、その一構成員である場合には、他の構成員全員から、右一構成員が代理受領者に対して負担する債務について保証・債務引受等の特約を得ていない限り、代理受領権者は、その受領した代金を一旦共同企業体に引渡さなければならず、しかるのち、共同企業体の内部関係において構成員間での工事代金等の精算分配手続を経て、構成各員の分配取得額が確定されるのであり、共同企業体の工事代金についての代理受領権者といえども、債務者たる一構成員の右分配取得額を超える額についてまで債権の回収をはかることはできないからである。
(二) 本件共同企業体では、その構成員の被告冨士工と八興建設との協定により、八興建設が工事施工を担当することとされており、同社は、昭和五六年三月一三日ごろ、本件共同企業体として、本件請負工事に着工した。
ところが、八興建設は、同月三一日及び同年四月三〇日に不渡手形を出して倒産し、同年五月一日以降同社役員が逃亡して所在を隠す等により廃業するに至つた。
(三) ところで、本件請負工事の全部の担当者であつた八興建設が倒産廃業に至るまでに共同企業体として施工した工事出来高は、わずかに総額金九三五万六四一三円であつた。
他方、本件共同企業体は被告東大阪市から、本件請負工事着工前に、工事前払金として、金五〇〇〇万円を受領していたところ、八興建設がこれを全額取得して他に費消してしまい、右金員は共同企業体としての本件請負工事資金には全く利用されなかつた。しかも、八興建設は、前記出来高工事のため使用した同社の下請工事代金総額金二〇二二万円を支払わないまま倒産したため、被告冨士工は、八興建設のために、右金員の代位弁済を余儀なくされた。
(四) したがつて、八興建設が、本件共同企業体の内部関係において精算分配を受け得る工事代金分配取得額は皆無であり、本件代理受領の目的債権は発生しないことに確定した。
2 仮に抗弁1が認められないとしても、
(一) 本件共同企業体が受注した本件請負工事は、前記1(二)に記載のとおりの結果に終つたので、被告冨士工は八興建設に対し、同年五月七日、右両者間の本件共同企業体及び本件請負工事に関する一切の契約関係を解除する旨の意思表示をした。
さらに、被告東大阪市は八興建設に対し、同年八月一二日、公示送達の方法により、八興建設との関係において、本件共同企業体との間の本件請負契約を解除する旨の意思表示をした。
その後、被告冨士工は八興建設に対し、同年八月一九日、民法上の組合としての本件共同企業体の解散を請求した。
(二) その後、被告冨士工は被告東大阪市との間で、昭和五六年六月一七日、本件請負工事につき、大要左記のとおりの内容の工事請負変更仮契約を締結し、同契約内容につき、同年七月二日、被告東大阪市議会の議決を経て、同日、本契約を締結した(「本件請負変更契約」という。)。
記
(1) 本件請負工事につき、従来本件共同企業体が請負人であつたものを、被告冨士工を新請負人とする。
(2) 被告冨士工は、本件請負工事に係る本件共同企業体の権利義務を包括して承継する。
(3) 工期は当初の昭和五七年二月八日を同年三月一〇日とする。
(三)(1) 被告冨士工は、昭和五六年六月一七日、本件請負変更契約に基づき、変更後の本件請負工事に着工し、昭和五六年三月一二日完成した上、被告東大阪市に引き渡した。
(2) よつて、被告冨士工は被告東大阪市に対し、本件請負工事代金二億六〇〇〇万円の請求権(本件債権)を有する。
(四) 以上のとおり、被告東大阪市から支払われるべき本件請負工事代金は、そのすべてを、被告冨士工が本件請負変更契約に基づき単独で工事を旋工し完成させたことにより直接固有に取得したものであるから、本件代理受領委任契約の効力は、本件債権に及ばない。したがつて、本件供託金について還付請求権を有するのは被告冨士工である。
(被告東大阪市)
1(一) 被告冨士工の抗弁2の(一)ないし(三)に記載のとおりであるから、これを援用する。
(二) したがつて、原告主張の本件代理受領権限は、そのもととなる本件請負契約が請負人である本件共同企業体の消滅により解除となり、それに伴つて代理受領権限も消滅した。
2(一) 請求原因7記載のとおりであるから、これを援用する。
(二) よつて、被告東大阪市は、本件請負工事代金を弁済済みである。
六 被告らの抗弁に対する原告の認否
(被告冨士工の抗弁につき)
1(一) 抗弁1(一)の事実は争う。
(二) 同1(二)の事実のうち、本件請負工事が着工されたこと、八興建設が昭和五六年三月三一日及び同年四月三〇日に不渡手形を出して倒産し、同会社役員の所在が不明であることは認めるが、その余の事実は知らない。
(三) 同1(三)の事実は知らない。
(四) 同1(四)の事実は争う。
2 抗弁2の各事実はいずれも争う。
(被告東大阪市の抗弁につき)
1(一) 抗弁1(一)の事実に対する認否は、被告冨士工の抗弁2(一)ないし(三)の各事実に対する認否に同じ。
(二) 抗弁1(二)の事実は争う。
2(一) 抗弁2(一)の事実は認める。
(二) 抗弁2(二)の事実は争う。
七 反訴請求原因
1 本訴請求原因2に同じ。
2 本訴における被告冨士工の抗弁1(二)の事実に同じ。
3 本訴における被告冨士工の抗弁2(一)の事実に同じ。
4 本訴における被告冨士工の抗弁1(三)の事実に同じ。
5 本訴における被告冨士工の抗弁2(二)の事実に同じ。
6 本訴における被告冨士工の抗弁2(三)の事実に同じ。
7 本訴請求原因7の事実に同じ。
8 本訴における被告冨士工の抗弁2(四)の事実に同じ。
9(一) 原告は、故意又は過失により、原告の本件代理受領権限がないにもかかわらず、右権限を有すると主張して、本訴請求原因7記載のとおり本件仮処分を申請しその旨の決定を得て、右執行を行つた。
その結果、被告東大阪市は、本訴請求原因7記載の経緯により本件請負工事代金二億六〇〇〇万円を供託し、そのため、被告冨士工は本来被告東大阪市より支払を受けるはずの右金員の支払を受けられなくなつた。
(二) 被告冨士工が、原告の右不法行為により被つた損害は、右供託金に対する供託日の翌日である昭和五八年五月二七日から被告冨士工が還付を受け得る日である本件判決確定の日まで商事法定利率年六分の割合による金員が相当である。
よつて、被告冨士工は原告に対し、別紙供託金目録記載の供託金の還付請求権が被告冨士工に帰属することの確認を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償として、右供託金二億六〇〇〇万円に対する供託の日の翌日である昭和五八年五月二七日から被告冨士工が供託金の還付を受け得る日である本判決確定の日まで商事法定利率年六分の割合による損害金の支払を求める。
八 反訴請求原因に対する原告の認否及び主張
1 反訴請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実のうち、本件請負工事が着工されたこと及び八興建設が昭和五六年三月三一日及び同年四月三〇日に不渡手形を出して倒産し、同社役員の所在が不明であることは認め、その余の事実は知らない。
3 同3ないし5の各事実はいずれも知らない。
4 同6(一)の事実のうち、昭和五七年三月一二日に本件請負工事が完成したことは認め、その余の事実は知らない。同6(二)の事実は争う。
5 同7の事実は認める。
6 同8の主張は争う。
7 同9の事実は否認する。原告の本件仮処分申請行為は正当な権利の行使である。
九 反訴抗弁
1 被告東大阪市が本件共同企業体に本件請負工事を発注したのは、右共同体の構成員の一部に倒産その他の事態が発生し、そのため工事が完成されないという危険を回避するためであり、したがつて、たとえ八興建設が倒産したとしても、その余の構成員の被告冨士工は全く健在であつて工事完成能力を十分有していたことからすれば、本件請負変更契約により請負人名義を変更する必要性は全くなかつた。被告ら間の右請負変更契約締結の真の目的は、八興建設の倒産による本件請負工事の中断や完工への危惧ではなく、原告の本件代理受領権限の形骸化を計ることにあつたものである。
2 また、原告の代理受領権者としての利益は、委任者の被告冨士工はもちろん、第三債務者の被告東大阪市も、これを尊重し、侵害してはならない義務を負つている。
3 しかも、本件貸付金は、本件請負工事に使用され、被告冨士工も右工事完成のために受益している。
4 そうすると、仮りに被告らの間で本件請負変更契約が締結されたとしても、右契約は、信義則上原告に対抗し得ない。
一〇 右抗弁に対する被告らの認否
すべて否認する。被告らには、右請負変更契約を締結するにつき正当な理由があつた。
第三 証拠<省略>
理由
第一本訴請求関係
一被告冨士工の本案前の主張について<省略>
二主位的請求について
1〜3<省略>
4 そこで、以下、被告らの抗弁につき順次検討する。
(一) 被告冨士工の抗弁1については、先ず、本件共同企業体は、その形態からみて全構成員が一体となつて合同計算により工事を施行する共同施工方式であつて、その法的性質は民法上の組合というべきであり、本件のごとく共同企業体の内部関係において、八興建設のみがもつぱら工事を施行する旨の合意がなされたとしても、本件請負契約の注文者たる被告東大阪市に対する関係では、構成員全員が連帯して工事を施行すべき義務を負担していることに徴すると、被告東大阪市が支払うべき本件請負代金は、その性質上、本件共同企業体の構成員全員たる被告冨士工及び八興建設に不可分的に帰属するものであつて、構成員各自に、その共同企業体における内部的持分割合に従い、分割されて帰属するものではないと解するのが相当である。
そして、被告冨士工及び八興建設は連名で、原告との間に、被告東大阪市が支払うべき本件請負代金の内金三億円につき、右両会社がその受領を原告に委任し、原告が直接被告東大阪市から右金員を受領することができる旨の本件代理受領委任契約を締結し、被告東大阪市も右代理受領を承諾したというのであるから、被告冨士工及び八興建設は、右両会社に不可分的に帰属する本件請負代金債権の内金三億円を、原告の本件代理受領権限の目的に供したものというべきである。よつて本件代理受領の目的債権は、八興建設が本件共同企業体の内部関係において取得することを得べき請負工事代金請求権の持分の限度内であるとの被告冨士工の主張は失当であり、抗弁1は採用することができない。
(二) 次に、被告冨士工の抗弁2について判断する。
(1) 先ず、八興建設が昭和五六年三月三一日及び同四月三〇日に不渡手形を出して倒産し、同社役員の所在が不明であることは当事者間に争いがない。
(2) 右争いのない事実に、<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、
(イ) 八興建設は、昭和五六年三月一三日から、本件共同企業体の一員として本件請負工事に着工したが、同月三一日及び同年四月三〇日には不渡手形を出して倒産し、同年五月六日、銀行取引停止処分を受け、それ以降一切の営業活動を停止した。しかも、同社役員瀬川、田宮は、同年五月一日以降逃亡し所在を隠してしまつたため、本件請負工事は、整地工事しか行われていない状態のまま中止されるに至つた。
(ロ) 被告冨士工は、原告あるいは八興建設から、前記代理受領承認願に原告が受任者として記名押印したこと及び右書面に被告東大阪市が承認したことにつき報告がなかつたため、右事実を知らず、また、原告が八興建設に融資するものと考えており、八興産業に既に融資していたことは全く知らなかつたところ、昭和五六年四月七日ごろ、被告東大阪市との間で、八興建設の不渡の事態につき協議した際、初めて、被告東大阪市が代理受領を承認していたことを知り、更に、同月一四日には、原告鴻池支店長赤田に電話した際、同人よりはじめて原告が八興建設に一億三〇〇〇万円を融資したことを知らされたが、原告が八興産業に対して総額二億六〇〇〇万円を融資していたことについては本訴提起時まで知らなかつた。
(ハ) 被告冨士工は、八興建設の倒産という事態に対応するため、同年五月六日、八興建設に対し、内容証明郵便により、建築事業を共同して営むことが不可能であることを理由として、本件共同企業体協定契約及び本件請負工事に関する工事協定等一切の契約関係を解除する旨の意思表示をし、右書面は、同月七日、八興建設に到達した。
(ニ) これを受けて、被告東大阪市も、八興建設の工事続行が不可能と判断し、同年六月二〇日、八興建設に対し、内容証明郵便により、同社との関係において、本件請負契約を解除する旨の意思表示をしたが、前記倒産に伴う役員の所在不明のため右書面は到達しなかつた。そこで、被告東大阪市は、改めて、東大阪簡易裁判所に対し、意思表示の公示送達の申立てを行い、右申立ては認められ、同年八月一二日の経過により右解除の意思表示が八興建設に対し到達したものとみなされた。
(ホ) さらに、被告冨士工は、同年八月一八日、八興建設に対し、内容証明郵便により、同社の倒産が民法上の組合としての本件共同企業体の解散事由に当たると判断し、民法六八三条の規定に基づき、本件共同企業体の解散を告知し、右書面は、同月一九日、八興建設に到達した。
(ヘ) なお、被告東大阪市では、公共事業発注にあたり前払金制度を採用しており、本件請負契約でも工事着工前の昭和五六年一月二六日に被告東大阪市から本件共同企業体に対し、前払金として金五〇〇〇万円が支払われたが、右金員は八興建設が本件請負工事を施工する関係上、同社が取得しその用に供した。ところが、本件請負工事の施工状況は整地の途中で中止されていたため、同年五月二日、被告東大阪市は被告冨士工立会いのもとに八興建設の施工した工事出来高の査定を行い、同日における出来高金額を金九三五万六四一三円と確認した。
他方、八興建設は本件請負工事施工のため使用した下請業者に下請代金を支払わないまま倒産したため、下請業者のうち片平土建株式会社は本件工事現場を占拠し、立入禁止の仮処分を申請したことから、被告冨士工は片平土建に対し、同年六月一三日、本件請負工事のうち八興建設の発注に基づき施工した整地工事代金として金一四五〇万円を支払つたほか、他の下請業老にも同様の理由から約八〇〇万円を支払つた。
(ト) 被告東大阪市は、八興建設の倒産により、本件請負工事が完成せず西堤小学校分教場の開校が予定の昭和五七年四月一日より遅れることを懸念し、他の構成員である被告冨士工に対して早期着工方を要請した。しかし、被告冨士工は、本件請負工事を続行することにより本件代理受領の関係で工事代金が八興建設あるいは原告に渡り、その結果、被告冨士工に損害が及ぶことその他後日になつて八興建設が工事代金につき権利主張する場合の生じる可能性を考え、本件共同企業体の構成員の立場での工事続行に難色を示したため、被告らが協議した結果、昭和五六年六月一七日、八興建設の倒産により本件共同体の目的である建築事業を共同して営むことが不可能となつた事態に伴い、本件請負工事につき請負人を被告冨士工に変更し、被告冨士工は、本件請負工事に係る本件共同企業体の権利義務を包括して承継し、責任をもつて同工事を完成すること、従来の工事期限昭和五七年二月八日を同年三月一〇日に変更することを内容とする工事請負変更仮契約を締結し、同契約内容について、昭和五六年七月二日、東大阪市議会の議決を経た上、同日、被告ら間で工事請負変更契約を締結した。なお、右契約締結に際し、被告らから原告に対し連絡や協議はなかつた。
(チ) そして、被告冨士工は、右変更契約に基づき、同年六月一七日、変更後の本件請負工事に着工し、昭和五七年三月一二日、右工事を完成した上、発注者の被告東大阪市に引き渡した。
なお、本件請負代金として、被告東大阪市から被告冨士工に対し、昭和五六年七、八月ころ、金一億五〇〇〇万円、工事完工時に金六〇〇〇万円がそれぞれ支払われたが、残代金は後記のとおり供託された。
以上の事実が認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
(3) 以上の認定事実によれば、本件債権が、被告東大阪市と被告冨士工間では昭和五六年七月二日に締結された工事請負変更契約に基づいて発生した債権であることが明らかである。なお、本件共同企業体の前記工事出来高九三五万余円が本件債権に含まれていることについては未だ証拠上明らかではない。そこで、本件請負契約と右変更契約との関係について審究するに、前記認定の如く、右変更契約は、本件共同企業体が共同して建築事業を営むことが不可能となつた事態を前提として締結されたものであるところ、契約内容は、請負人、工事期限が変更されたほかは、被告冨士工は本件請負工事に係る本件共同企業体の権利義務を包括して承継し、責任をもつて同工事を完成する約定となつている。しかしながら、証人吉田季太郎の証言によれば、右承継されるべき本件共同企業体の権利義務の中には、本件代理委任受領契約は含まれておらず、対被告東大阪市との関係で従前の権利義務を承継する趣旨の約定であるにとどまることが認められる。そうすると、本件請負契約と右変更契約との間には同一性、継続性はなく、且つ本件代理受領委任契約の効力は右変更契約には及ばないものというべきであるから、本件債権は被告冨士工が右変更契約に基づいて固有に取得したものということができ、被告らの抗弁は理由がある。
5 以上の次第で、仮りに原告主張の如く代理受領委任契約が適法に成立したものとしても、本件債権は本件請負契約に基づいて発生したものではないから、これに右代理受領委任の効力が及ぶに由なく、よつて、原告の被告らに対する主位的請求は理由がない。
三予備的請求(一)について<省略>
四予備的請求(二)について
1 まず原告は、本件請負変更契約は、原告の代理受領権限者としての利益を侵害したと主張するので、この点につき検討を加える。
(一) 本件の代理受領においては、前記認定のとおり、委任者、受任者双方の同意の上でなければ、代理受領の委任を解約しない旨の特約があるところ、右特約の付した前記代理受領承認願書に、被告冨士工は委任の趣旨で委任者の一員として記名押印し、被告東大阪市も承諾の趣旨で記名押印したのであるから、本件代理受領の委任者たる被告冨士工としては、当然代理受領によつて得られる原告の利益をみだりに侵害してはならない義務を負つており、また、被告東大阪市の右承諾の趣旨も、単に代理受領を承認するにとどまらず、代理受領によつて得られる原告の利益を承認し、正当の理由がなく右利益を侵害しないという趣旨をも当然包含するものと解するのが相当である。
(二) そこで、これを本件についてみると、<証拠>によれば、本件請負契約における契約条項第四六条一項において、本件共同企業体の構成員は連帯して被告東大阪市に対し、同契約に基づく一切の債務の履行の責に任ずる旨規定されていることが認められるから、たとえ、その一構成員である八興建設が倒産し請負工事を遂行し得ない事態が発生しても、他の構成員である被告冨士工は、本来被告東大阪市との関係では、右契約上、本件請負工事を単独で完工する責任があつたというべきであり、また、前記認定したところによれば、被告東大阪市が本件共同企業体に本件請負工事を発注した理由の一つは、一つの業老に発注した場合には、当該業者が倒産し、工事が完成されないおそれがあるという危険を回避することにあつたことが推認される。そうすると、本件請負変更契約は、本件請負工事の完工という面からすれば、必ずしも必要ではなかつたと認めざるを得ない。しかも、証人福岡良男、同渡辺敏之の各証言によれば、本件請負変更契約の締結及びその前提となる本件共同企業体の解消が、原告の同意なしに行われたことが認められる。そうだとすると、本件請負変更契約は、実質的には本件代理受領委任契約を原告の同意なく一方的に解約したのと同一の効果をもたらすことになるから、被告冨士工にとつては、前記代理受領に付した特約に形式上違反し、被告東大阪市にとつては右違反行為に加担する行為に該当するものであつて、原告の代理受領の利益を結果として侵害したことを認めざるを得ない。
2 そこで、本件請負変更契約締結につき、被告らに違法性が認められるか否かにつき検討する。
(一) まず、本件代理受領に際しては、請負契約上本件共同企業体が請負人とはなつているが、原告、八興建設、被告冨士工ともに、八興建設が本件請負工事を全面的に行い、請負代金は八興建設が実質的に取得するとの共通の認識があり、とりわけ、被告冨士工は、八興建設が工事を行うため自己に請負代金が帰属しないことを前提として八興建設の代理受領委任の申入れを了解した経緯に照すならば、八興建設が倒産し、本件請負工事を施工しないという事態の発生は、右当事者間の本件代理受領における前提を根底から覆すものである。すなわち、本件請負契約の請負人は一応本件共同企業体であるが、その実態は八興建設の単独事業であり、被告冨士工は所謂ペーパージョイント的立場にあつたところ、原告は右実態を充分了解の上、本件各貸付をなしたものであり、しかも右各貸付に当たり被告冨士工の了解を得ていないのみならず、その通知もなしていないのであるから、原告自身も当初から右八興建設による工事代金を引き当てとして右貸付をなしたものと推認せざるを得ない。したがつて、八興建設の倒産によつて本件代理受領を受ける基盤がなくなつたとしても、原告にとつて、これが予想外の事態であつたということはできない。
(二) 次に、原告代表者は、被告冨士工が本件共同企業体の構成員であることにより、同被告の全面的な保証を得られるものと信じて前記各貸付をなした旨供述するが、もしそうであるなら、同被告の資力を引き当てとして、一方的に場合によつては同被告が構成員であることを奇貨として、同被告の了解なく他の構成員に限度なく貸付け、これにつき同被告がその弁済責任をすべて負担するという極めて不当な事態が発生することが予想されるが、右の如き事態は到底容認することができないところである。しかるところ、被告冨士工が原告の八興建設(契約上は八興産業)に対する本件貸金について連帯保証をしたことを認めるに足る証拠はなく、<証拠>によれば、同被告には連帯保証の意思はなく、原告もそのことを知悉していたことがうかがわれるほか、前掲丙第六号証の記載もこれを示しているのであつて、それにもかかわらず、原告が本件代理受領をもつて、被告冨士工により継続された請負工事による請負代金を代理受領することは、被告冨士工に八興建設の債務につき連帯保証をさせたのと同じ結果になり、原告に過大の利益を与えるものというべきである。
(三) 次に、八興建設が倒産した時点において同社が独自に行つた工事出来高は、請負代金総額からみて微々たるものであるばかりでなく、被告東大阪市から受領した工事前払金にも及ばないことが認められ、その他、原告の八興産業に対する貸付金の使途からすると、右貸付金はほとんど本件請負工事には使用されていなかつたものと推認され、まして、右貸付金によつて被告冨士工が受益しているものはなかつたというべきである。しかして、被告冨士工が本件共同企業体の一員として八興建設の工事を引き継いで施工するとすれば、被告冨士工が本件請負工事のほぼ全部を単独で施工することになるところ、<証拠>によれば、被告冨士工は、違約金その他不利益処分を甘受して本件請負工事から手を引くこともできたが、被告冨士工としては、右工事が学校建設という極めて公共性の強いものであることや、将来地方公共団体が発注する工事を請負うことができなくなるおそれがあつたところから、これを回避したことが認められることからしても、被告冨士工が本件請負工事のみを八興建設から引き継ぎ、工事代金は代理受領により原告の取得するという事態は、被告冨士工にとつて到底容認しうるところではないと考えられる。
(四) また、<証拠>によれば、八興産業に対する本件貸付当時の原告の審査部長であつた長田明は、原告が、本件代理受領以前に、大木建設、海原建設、八興建設共同企業体が被告東大阪市から受注した荒本解放センター新築工事の請負代金につき、本件同様代理受領を受けていた件において、請負人は共同企業体であるが八興建設が事実上単独で工事を施工しているので実質は八興建設が請負代金を取得するものと原告において認識していた旨供述していることが認められ、右事実によれば、原告としても、請負人が共同企業体であることよりはむしろ、融資先が現実に工事をしたことを重視していたと考える余地もある。
(五) さらに、仮りに、原告が主観的には、本件代理受領により、原告の八興産業に対する貸金債権の回収を計るための担保手段として十全であると考えていたとしても、次に述べるように、右担保利用の趣旨が被告らとの関係でも明確な合意内容となつていたかどうかは極めて疑わしい。すなわち、前記認定のとおり、原告と被告冨士工間では代理受領につき何らの協議も行つていないことが認められるのみならず、代理受領の被担保債務というべき原告の八興産業に対する本件貸付金の金額、貸付時期についても、何ら原告は被告冨士工に知らせておらず、そのため、被告冨士工は、八興建設の倒産後初めて、既に出来高のない段階で融資が実行されていたことを知つたもので、右融資先が、原告の八興建設に対する貸付限度額超過を回避する目的で、八興建設の実質上のトンネル会社たる八興産業に対し行われていたこと及び融資金額が二億六〇〇〇万円もの多額にのぼつていたということは本訴提起時までまつたく知らなかつたというのである。思うに、代理受領は、いわゆる非典型的担保とされているが、その法的内容、特に担保的拘束力につき不明確な点が生ずるのは避けられないのであるから、原告としては、これを担保として利用する場合にはその内容を明確にすべきであつて、特に本件のように融資時には未だ工事の出来高がない状況下では、建設共同企業体の他の構成員の利益を図るためにも一層その必要性は強いものといわざるを得ない。しかるに、本件代理受領承認願においては、被担保債権となるべき融資先(八興産業)との債権関係等は明記されておらず、その限りで右書面は不明確であつて、債権確保の手段としては、杜撰なものであつたと認めざるを得ない。
(六) 以上の諸点を総合すれば、八興建設が倒産したことから、被告東大阪市との間で新たに本件請負変更契約を締結し、右請負代金を自己固有のものとし、原告による代理受領の主張を回避しようとした被告冨士工の行為は、まことにやむを得ないものというべきであり、これをもつて違法行為であるとは未だ認め難い。<以下、省略>
(久末洋三 三浦潤 中本敏嗣)
債権目録、供託金目録<省略>